わかれの とき
2006年 07月 18日
7/15 午前
どこがとはうまくいえないけれど、グレイシーは元気がなかった。
立ち上がりが遅いのは、加齢のせいなんだろうけれど。
しょんぼりした背中を向けて寝ている姿が気になったが、これ以上わたしにはどうしようもない。
トイレの縁に顔をあずけながら、うえぇぇぇとなにか白いものをはきだした。
「嘔吐か!?」と驚いたがさにあらず、かみ砕いてほおぶくろに入れておいた食料を出しただけだった。
ただ、出したはいいが、グレっちは食べることはできなかった。
食べようと努力しているのに、食べられない、そんな感じだった。
いやな予感がした。
エンシュアリキッドは飲むのだけれど、飲んだ後に肩呼吸がひどくなる。
食事や水分摂取が困難になってしまった。
だからといって、なにも与えなければ、死に直結する。
わたしは頭を抱えてしまった。
ともかく今はグレイシーがラクに過ごせることを優先しなければいけないなと思うと、頭の奥がじんとしびれた。
わたしは無力だった。
そして、この画像が彼の生きた姿を捉えた最後の写真となった。
午後9時24分
わたしが人間界のしがらみの中で動くことを余儀なくされ、困惑しながらも遅くなってしまった夕食の用意に奔走している時間だった。
「グレっちがね、グレっちがね…。」
亭主殿の手には、眠るように旅立ったグレっちの亡骸が鎮座していた。
死後硬直が開始していた。
押し寄せる雑事に手が放せない時間だった。
グレイシーをひとりで逝かせてしまった。
グレっちが今亡くなることがわかっていたのだったら、なにもかもキャンセルするんだったのに。
彼の時間が残り少ないのは知っていたはずだったのに。
なぜわたしは、そばにいなかったんだろう。
グレイシーは、静かで穏やかな顔をしていた。
前日まではねていた毛も、いつの間にやら美しく整っていて、なぜ息をしていないのかが不思議なくらいだった。
亭主殿が庭の花を摘んできて、小さな花束を作った。
玄関で咲き始めたばかりの桔梗と、わたしが大好きなバラ・リトルアーティストが、グレイシーと、彼に持たせたお土産の数々を包み込んだ。
グレイシーにお線香をあげたのち、近所の静かな林に埋葬した。
夜の闇に、喪失感が濃くとけだしているかのようだった。
夜遅く帰宅して、作りかけのまま散乱している夕食をやっとの思いで作り終える。
腹なんか空いていないのに、味なんかわからないのに、無理矢理飲み込む。
グレイシーはもう食べることはないのに、明日を生きるために食べている自分が悲しかった。
「グレっちは、最初に倒れたときにもう運命は決まっていたんだ。
2歳7ヶ月半といえば、十分生きた。
老衰は病気ではないんだ。
あのとき命の灯火は復活したけれど、命のろうそくの芯自体がのびたわけじゃない。
最期まで自力で歩いてトイレにも行って、少しだけれど美味しい物も食べた。
グレっちが命のおわりを尊厳をもって生きることの手伝いができたのだから、
それでよしとしなければいけないんじゃないか?」
亭主殿は、言葉をさがしながら、訥々と語りかけてきた。
なぐさめの言葉が暖かすぎて、心がひりひりと痛んだ。
*** *** *** *** *** *** *** ***
グレイシーを応援してくださってみなさま、どうもありがとうございました。
覚悟していたとはいえ、逝かれてしまうと気が抜けてしまっていました。
ご報告が遅れましたことをお詫びいたします。
どこがとはうまくいえないけれど、グレイシーは元気がなかった。
立ち上がりが遅いのは、加齢のせいなんだろうけれど。
しょんぼりした背中を向けて寝ている姿が気になったが、これ以上わたしにはどうしようもない。
トイレの縁に顔をあずけながら、うえぇぇぇとなにか白いものをはきだした。
「嘔吐か!?」と驚いたがさにあらず、かみ砕いてほおぶくろに入れておいた食料を出しただけだった。
ただ、出したはいいが、グレっちは食べることはできなかった。
食べようと努力しているのに、食べられない、そんな感じだった。
いやな予感がした。
エンシュアリキッドは飲むのだけれど、飲んだ後に肩呼吸がひどくなる。
食事や水分摂取が困難になってしまった。
だからといって、なにも与えなければ、死に直結する。
わたしは頭を抱えてしまった。
ともかく今はグレイシーがラクに過ごせることを優先しなければいけないなと思うと、頭の奥がじんとしびれた。
わたしは無力だった。
そして、この画像が彼の生きた姿を捉えた最後の写真となった。
午後9時24分
わたしが人間界のしがらみの中で動くことを余儀なくされ、困惑しながらも遅くなってしまった夕食の用意に奔走している時間だった。
「グレっちがね、グレっちがね…。」
亭主殿の手には、眠るように旅立ったグレっちの亡骸が鎮座していた。
死後硬直が開始していた。
押し寄せる雑事に手が放せない時間だった。
グレイシーをひとりで逝かせてしまった。
グレっちが今亡くなることがわかっていたのだったら、なにもかもキャンセルするんだったのに。
彼の時間が残り少ないのは知っていたはずだったのに。
なぜわたしは、そばにいなかったんだろう。
グレイシーは、静かで穏やかな顔をしていた。
前日まではねていた毛も、いつの間にやら美しく整っていて、なぜ息をしていないのかが不思議なくらいだった。
亭主殿が庭の花を摘んできて、小さな花束を作った。
玄関で咲き始めたばかりの桔梗と、わたしが大好きなバラ・リトルアーティストが、グレイシーと、彼に持たせたお土産の数々を包み込んだ。
グレイシーにお線香をあげたのち、近所の静かな林に埋葬した。
夜の闇に、喪失感が濃くとけだしているかのようだった。
夜遅く帰宅して、作りかけのまま散乱している夕食をやっとの思いで作り終える。
腹なんか空いていないのに、味なんかわからないのに、無理矢理飲み込む。
グレイシーはもう食べることはないのに、明日を生きるために食べている自分が悲しかった。
「グレっちは、最初に倒れたときにもう運命は決まっていたんだ。
2歳7ヶ月半といえば、十分生きた。
老衰は病気ではないんだ。
あのとき命の灯火は復活したけれど、命のろうそくの芯自体がのびたわけじゃない。
最期まで自力で歩いてトイレにも行って、少しだけれど美味しい物も食べた。
グレっちが命のおわりを尊厳をもって生きることの手伝いができたのだから、
それでよしとしなければいけないんじゃないか?」
亭主殿は、言葉をさがしながら、訥々と語りかけてきた。
なぐさめの言葉が暖かすぎて、心がひりひりと痛んだ。
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グレイシーを応援してくださってみなさま、どうもありがとうございました。
覚悟していたとはいえ、逝かれてしまうと気が抜けてしまっていました。
ご報告が遅れましたことをお詫びいたします。
by hamstershouse
| 2006-07-18 01:30
| グレイシー